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新潟地方裁判所 昭和62年(ヨ)261号 決定 1988年1月11日

債権者 萱森秀明

右代理人弁護士 川上耕

債務者 株式会社 西村書店

右代表者代表取締役 西村正徳

右代理人弁護士 古川兵衛

主文

一  債権者が債務者本店(債務者の肩書住所地)を勤務場所とする労働契約上の地位を有することを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、金一一万六二七六円及び昭和六二年一二月から本案訴訟の第一審判決に至るまで毎月二五日限り金一四万九七八八円の仮の支払をせよ。

三  債権者のその余の申請を却下する。

四  申請費用は債務者の負担とする。

理由

第一債権者の申立て及び主張

一  申請の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  債務者は債権者に対し、金一一万六二七六円及び昭和六二年一二月から本案訴訟の判決確定まで毎月二五日限り金一四万九七八八円の仮の支払をせよ。

3  主文第四項と同旨

旨の裁判を求める。

二  申請の理由

1  (当事者)

債務者は書籍の販売・出版等を目的とする株式会社であり、肩書住所地に本店があるほか、新潟市五十嵐と秋田市に支店が、東京都に営業所がそれぞれ置かれている。

債権者は債務者との間に昭和六〇年九月二六日ころ労働契約を締結し(以下「本件労働契約」という。)、同年一一月五日から勤務を開始した従業員であり、本店において勤務してきた。

2  (配転命令)

債務者は債権者に対し、昭和六二年一〇月一〇日に配達された郵便により、同月二六日からの東京営業所勤務を命じた(これを以下「本件配転命令」という。)。

3  (本件配転命令の無効)

本件配転命令は以下の理由により無効である。

(一) (労働契約違反)

債権者と債務者は本件労働契約を締結する際、債権者の勤務場所を債務者本店に限定する旨を合意した。債権者は横浜市所在の出版会社(以下「旧勤務先」という。)に五年間勤務し、中学生向け問題集等の編集業務に携わっていたものであるが、新潟県中蒲原郡小須戸町に住む両親の世話をするため新潟へ帰る必要が生じたので、旧勤務先を退職し、新潟市内にある債務者本店の編集部において編集業務を担当することを内容とする本件労働契約を締結したのである。

(二) (人事権の濫用)

仮に(一)記載の合意が認められないとしても、本件配転命令には次の(1)ないし(4)に記載の事情があるから、人事権を濫用するものとして無効である。

(1) 債権者を東京営業所に勤務させる業務上の必要性は乏しい。債務者は、販売促進活動(書店、取次店、大学の医学部・歯学部、看護学校、病院等を訪問し、債務者の出版物を宣伝し、付随するサービスを行う活動をいう。)充実のため、東京営業所の人員を増やす必要があると説明するが、これは極めて非効率的な方法であるし、仮にその必要性があるとしても、新潟の本店から出張すれば足りることである。

(2) 債権者は昭和六二年三月一五日に婚姻したばかりである。妻は新潟市内で多額を投資して茶道と三味線の教室を開いており、生徒に対する責任上も東京へ転居することは出来ない。それ故債権者は本件配転命令によって単身赴任を余儀なくされるが、その辛さは言うまでもなく、二重生活による経済的不利益も大きい。

(3) 更に、債権者の両親は高齢(父は七二歳、母は六七歳)であり、債権者が家の中の力仕事をするなどその面倒を見なければならないのに、本件配転命令によりそれが不可能となる。

(4) 債務者は、事前に債権者本人に対して意向を打診することなく突然本件配転命令を内示し、債権者に配転の理由・必要性を十分に説明しないまま一方的に本件配転命令を発したのであって、手続が信義則に違反する。

(三) (不当労働行為)

債権者は昭和六一年七月一四日に結成された西村書店労働組合(以下「組合」という。)の副委員長である。債務者は組合活動を忌避し、組合活動妨害のため様々な不当労働行為を繰り返してきた。債権者に対する本件配転命令は、組合の中心的な活動家である債権者に対して不利益な取扱をし(労働組合法七条一号)、これを本店から排除して組合の力を弱める(同条三号)ことを意図した不当労働行為である。

4  (賃金債権)

(一) 債務者はその従業員に対し、毎月二五日に前月二一日から当月二〇日までの賃金を支払っている。債権者が本件配転命令までに債務者から受領していた給料は一か月当たり一八万七一四〇円(諸手当を含む。)であるが、内輪の請求として、債権者の昭和六二年八月ないし一〇月分の賃金から社会保険料と税金を差し引いた額の平均である一か月当たり一四万九七八八円のみを主張することにする。

(二) 債権者は、昭和六二年一〇月二六、二七の両日は有給休暇とし、同月二八、二九の両日は争議行為として就労を拒否し、同月三〇日以降は、組合の指示に従い東京営業所での就労を争議行為(消極的怠業)として拒否すると共に、本店での就労を求めて労務の提供を続けている。したがって一〇月二八、二九の両日分を除いては債権者の債務者に対する賃金債権が発生している。

5  (保全の必要性)

(一) 債務者は、債権者の労務の受領を拒否し続け、一〇月二八、二九の両日のみならず、同月三〇日以降の東京営業所での就労拒否をも賃金カットの対象とし、一一月二五日の給料日(支払対象期間は一〇月二一日か一一月二〇日)には一二万八三九六円の賃金をカットして四万三二八四円のみを支払った。

(二) しかしながら債権者が労務を提供しなかったのは一〇月二八、二九の両日のみであるから、右両日分である一万二一二〇円を除いては賃金カットできない筈であり、それ故、一一月二五日に支払を受けるべき賃金のうち、カットされた一二万八三九六円から右両日分である一万二一二〇円を差し引いた残額の一一万六二七六円は未払となっている。

(三) 債権者は債務者からの賃金収入のみによって生活を維持している労働者であり、東京への転勤によって生じる重大な不利益を回避しながら解雇を避け、生計を維持していくためには地位保全及び賃金仮払の仮処分が不可欠である。

第二債務者の申立て及び主張

一  申請の趣旨に対する答弁

1  債権者の申請をいずれも却下する。

2  申請費用は債権者の負担とする。

旨の裁判を求める。

二  申請の趣旨に対する認否及び反論

1  申請の理由1、2の各事実は認める。

2  同3(一)は否認する。債務者は従業員わずか二四名の小規模な会社であり、従業員の適性を見極めないうちに労働の種類と場所を固定するような合意をする筈がない。債務者においては転勤が多数行われており、転勤をさせない慣行は存在しない。就業規則にも転勤を前提とする規定が置かれている。

同3(二)は争う。販売促進活動充実のため、東京営業所の人員を増やす必要があるのである。転勤はそれが企業の合理的運営に寄与すると認められる限りその業務上の必要性が肯定されるべきであるし、債権者が転勤によって被ると主張する程度の損害は転勤に伴い通常甘受すべき程度のものである。

同3(三)も争う。本件配転命令は、東京営業所への転勤を命じられた従業員の白井が突然退職してしまったためやむを得ず取られた措置であり、債権者の組合活動とは全く関係がない。東京への転勤を命じうるのは本店勤務の男子従業員六名のみであるが、その全員が組合員であり、うち三名が組合役員であるから、債権者を配転命令の対象者として選定したことに何ら不当労働行為意思はない。

3  同4のうち、債権者が本件配転命令までに債務者から受領していた給料が一か月当たり一八万七一四〇円(諸手当を含む。)であること、債権者の昭和六二年八月ないし一〇月分の賃金から社会保険料と税金を差し引いた額の平均が一か月当たり一四万九七八八円であることは認めるが、その余は争う。

債権者は債務者から、東京営業所における就労を求められているのに、これを拒否しているのであるから、新潟の本店において就労を求めたからといって正当に労務を提供したとはいえず、ノーワーク・ノーペイの原則からして債権者に賃金債権の発生しないことは当然であり、このことは本件配転命令が仮に無効であったとしても全く同じである。本来であれば、債権者は債務者の指示に従い、一旦東京営業所において就労したうえで本件配転命令の有効・無効をめぐる争いをすべきである。債権者の就労拒否は、争議行為それ自体で配転命令を拒否するという目的を達成してしまう行為であって、正当な争議行為といえるかどうか疑問であり、仮に正当な争議行為として認められるとしても、それが争議行為である以上、賃金カットは使用者側の正当な対抗手段として認められなければならず、その効果は配転命令の効力とは切り離して考えられるべきものである。

4  同5のうち、債務者は債権者に対し一一月二五日の給料日に一二万八三九六円の賃金をカットして四万三二八四円のみを支払ったこと、一〇月二八、二九の両日分の給料が一万二一二〇円であることは認めるが、その余は争う。

第三当裁判所の判断

一  申請の理由1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  同3(一)について検討する。

1  《証拠省略》によれば、以下の事実が一応認められる。

(一) 債権者は昭和五五年三月に早稲田大学第一文学部を卒業した後、横浜市内にある旧勤務先に勤務し、中学生向け問題集の編集業務に従事していた。

(二) 債権者とその兄及び姉は、昭和六〇年当時いずれも関東地方に居住し、高齢の両親(当時父は六九歳、母は六五歳)が新潟県中蒲原郡小須戸町で二人だけで暮らしていることに不安を感じていた。そこで同年八月に右三名が帰省した際、両親を交えて話し合った結果、当時唯一の独身の子であった債権者が新潟へ帰って両親の世話をすることになった。

(三) そこで債権者は、新潟勤務が可能で、かつそれまでの職業上の経験を生かすことのできる職場を探していたところ、昭和六〇年九月八日付け朝日新聞(東京版)に債務者の求人広告が掲載されているのを見付けた。広告の上段には「編集部員」「営業部員」と並べて記載され、「編集部員」の下に「新潟本社勤務」と、「営業部員」の下に「秋田支社勤務」とそれぞれ記載されていた。債権者はこれを見て、前記希望が満たされる職場かも知れないと考え、編集部が新潟市所在の本店にあることを電話で確認したうえ、応募することにした。

(四) 同月二一日ころ、債務者東京営業所において、債務者代表取締役社長西村正徳による採用面接が行われた。席上、債権者は横浜市所在の出版会社で中学生向け問題集の編集をしていることを告げ、応募の動機として

(1) 両親が高齢になったので世話をするため新潟へ帰りたいこと

(2) これまでの職業上の経験を生かすため、編集業務に従事したいこと

の二点を説明した。給与については、債権者が旧勤務先の基本給は月額約一八万円である旨を告げると、西村社長は、債務者は月額約一五万円しか支払うことができない旨を答えた。なお債権者は、同社長の求めに応じて、後日、債権者の編集した問題集数冊を債務者本店宛送付した。

(五) 債権者は債務者から、同月二六日ころ、電話で採用通知を受けたため、約五年間勤務した旧勤務先を退職して債務者と労働契約を締結し、同年一一月五日から勤務を開始した。

(六) 以上の過程において、債権者の勤務場所と職種を限定する明示の合意は何らなされなかった。

(七) 債権者は債務者での勤務開始以来、本店において編集業務に携わっていたが、昭和六二年六月一九日から本件配転命令までの間は、本店販売促進部門において主にダイレクトメールの宛名書き(従来はいわゆるパート従業員が担当していた業務である。)を命じられていた。

(八) 債権者の旧勤務先における年収は約四〇四万円であったが、債務者に転職した昭和六一年の年収は約二四四万円であり、収入が約四割減少したことになる。

2  以上の事実関係を前提として、申請の理由3(一)の合意の存否について検討する。

(一) 債権者は約五年間勤務した旧勤務先を退職して債務者の従業員となったのであるが、旧勤務先を解雇されたとか、それに準ずるような形で事実上退職を余儀なくされた等の事情は全くないのに、収入の大幅な減少を甘受してあえて債務者に勤務することとしたのであるから、債権者にはそれに見合う大きなメリットが存在した筈である。このメリットとして考えられるのは、債権者の主張するとおり「従来通り編集業務に携わりながら新潟において勤務できること」以外にない。そして、債権者は採用面接の際、旧勤務先における担当業務と収入を告げ、応募の動機として高齢の両親を世話するため新潟に帰りたい旨を述べたのであるから、債務者(西村社長)もかかる事情を理解した筈である。そうすると、債権者と債務者は、本件労働契約締結の際、債権者の勤務場所を債務者本店に限定する旨の黙示の合意(申請の理由3(一))をなしたものと推認することができる。

(二) 疎乙第五号証(西村社長作成の陳述書)には、同社長は採用面接の際、債権者に対し、「暫く研修の意味も兼ねて新潟で働いてもらうが、その後は東京営業所で働いてもらうこともあり得ます。」と説明したと記載されているが、真にそのような説明がなされたのであれば、(一)に記載した事情、特に債権者が新潟勤務ということと編集業務ということに転職のメリットを見いだしている状況のもとにおいて、債権者が債務者への勤務を承諾するとは考えられない。また同号証には「面接の際の彼(債権者を指す。)の話では、それまで勤務していた会社の給料のほうが当社より二〇%ほど高いと言っておりましたので、何故当社に応募したのか聞いたところ、中学生向きの問題集の出版ではあきたらず、医学書専門の出版に興味をもっていること、新潟の生まれであるので最後は新潟に落ち着きたいと考えているが、当社であれば本社(本店を意味するものと解される。)が新潟にあるから、若い頃には転勤で動くことはあっても、いずれは新潟に落ち着けるものと考えていることなどを理由としてあげていました。」と記載されている。しかし収入が約四割も減少すること(二〇パーセントではない。)を考慮すると、右に述べられた理由のうち前者については、仮にそれが真の理由なのだとすれば、債務者としては債権者に中学生向け問題集の編集以上に意欲を満足させる仕事を与えなければならないことになるが、東京での販売促進活動(あるいはダイレクトメールの宛名書)が中学生向け問題集の編集以上に意欲を満足させる仕事であるとは到底考えられない。理由の後者についても、「いずれは」新潟に落ち着けるという程度の理由で約四割もの減収を甘受して転職に踏み切るとはこれまた考えることができないのであり、また《証拠省略》に照らして信用し難いところである。

(三) 疎乙第一号証(債務者の就業規則。昭和五五年四月一日制定と記載されている。)二二条一項には「社員が次の各号の一に該当するときは、特別休暇を与える。」と規定され、その六号には「転勤移動 三日」との記載がある。しかし、これは従業員が現実に転勤することになった場合に与えるべき休暇の日数を定めたものに過ぎず、配転命令権の根拠規定とは解することができないうえ、そもそも労働基準監督署長への届出がなされたのは昭和六一年七月一五日であること(この事実は同号証により一応認められる。)並びに《証拠省略》によれば、右就業規則が制定されたのは昭和六一年になってからであることが強く窺われるから、本件記録に基づいて判断する限り、債権者と債務者が本件労働契約を締結した際に右就業規則が存在したものとは考えられない。

(四) 《証拠省略》によれば、債務者の従業員の中には、債務者と労働契約を締結した際、転勤が有り得る旨を告げられたと認めている者が相当数おり、現に転勤の実例もいくつか存在する事実が一応認められる。しかし、《証拠省略》によれば、転勤が有り得る旨は告げられなかったと主張し、現に転勤経験のない者も多数存在する事実、転勤が有り得ると告げられたことを認め、また転勤に応じた者についても、うち一名は本店で事務を担当していた従業員が郷里である秋田へ転勤したものであり、その余はすべて営業担当従業員であって、編集担当従業員は皆無である事実(債権者は、債務者に勤務を開始した昭和六〇年一一月五日から昭和六二年六月一九日まで、一貫して編集業務に従事してきた。)が一応認められるから、右に述べた事情は前記推認を妨げるものではない。

(五) 《証拠省略》(債務者が昭和五九年九月一三日に職業安定所に提出した求人票)には「転勤あります。」と記載されている。しかしこれは本件労働契約締結前のものであり、債権者に示されたわけでもないから、前記推認を妨げるものとはいえない。

(六) その他、前記推認を妨げるべき疎明資料は存在しない。要するに、債務者なり西村社長なりが債権者を雇用する時点において内心でどのようなつもりでいたにせよ、問題は契約締結時の客観的事情によって法律上どのような合意が成立したと見ることが出来るかということであって、本件記録に現れた事情から判断すれば前記推認に落ち着くべきものと考えられるのである。

3  以上の次第で、本件配転命令は申請の理由3(一)の合意に反し、無効である。

三  申請の理由4(賃金債権)について検討する。

1  同(一)のうち、債権者が本件配転命令までに債務者から受領していた給料は、一か月当たり一八万七一四〇円(諸手当を含む。)であること、債権者の昭和六二年八月ないし一〇月分の賃金から社会保険料及び税金を差し引いた額の平均が一か月当たり一四万九七八八円であることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、債務者はその従業員に対し、毎月二五日に前月二一日から当月二〇日までの賃金を支払っている事実を一応認めることができる。また、《証拠省略》によれば、同(二)前段(労務の提供)の事実を一応認めることができる。そうすると、債権者はその主張にかかる賃金債権を取得したことが明らかである。

2  債務者は、「申請の理由に対する認否及び反論」欄3後段のとおり主張するが、この論に従うならば、労働者は配転命令を受け、それが無効であると考えた場合、

(一) 配転命令に一応従う

(二) 配転命令を拒否し、後日それが有効と判断された場合には解雇される危険性に身をさらす

(三) 賃金収入を得ることを諦める

の三つの選択肢から一つを選ばなければならなくなる。賃金をほとんど唯一の収入源としている労働者にとって(三)を選択することは極めて困難であろうし、後日配転命令が有効と判断される可能性を確信をもって否定しきれない場合(多くの場合はそうであろう。)には(二)を選択することも難しいと思われるから、結局(一)を選択するほかない。そうすると使用者は、無効な配転命令をなした場合であっても、有効な配転命令をなしたと事実上同一の効果を上げることができることになる。かかる解釈は、労働者に対して不当な不利益を押し付けるに等しく、相当でないから採用できない。

四  申請の理由5(保全の必要性)について検討するに、債務者は債権者に対し一一月二五日の給料日に一二万八三九六円の賃金をカットして四万三二八四円のみを支払ったこと、一〇月二八、二九の両日分の給料が一万二一二〇円であることは当事者間に争いがないから、同年一一月二五日に支払うべき給料債権のうち一一万六二七六円が未払となっていることは計算上明らかであり、債権者が東京営業所において就労しない限り債務者が同年一二月二五日以降に支払うべき賃金を任意に支払う意思のないことは、その主張に照らして明らかである。そして本件記録によれば、債権者は債務者から受ける給与が唯一の収入であり、特段の資産もないことが容易に窺われるから、債権者が債務者本店を勤務場所とする労働契約上の地位を有することを仮に定めると共に、債務者に対し賃金の仮払を命ずる必要性が認められる。ただし、本案訴訟の第一審判決において非保全権利たる賃金債権の存在が認められるならば、これに仮執行の宣言が付されることが通常であるから、本案訴訟第一審判決言渡以後については仮払を命ずる必要性に欠ける。

五  よって、本件申請は主文第一、二項の限度で理由があるからこれを認容し(事案の性質上、保証を立てさせることは相当でないと認める。)、その余は失当であるからこれを却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法二〇七条、八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 村上正敏)

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